『聯合ニュース』の和田春樹へのインタビューに、次のようなやりとりがあった(強調は引用者)。
せっかくアジア女性基金(以下、「国民基金」)をつくったのに韓国が拒否したから右翼が大量に跋扈することになった、今度日本が「何かをしようとするとき」、「韓国人も日本を助けてくれねばならない」と、和田は韓国に向かって呼びかけているのである。日本の右傾化をタテに韓国に「和解」の受け入れを迫るもので、脅しにも似た驚くべき発言といえる。ただこうした「物語」の流布は、日本軍「慰安婦」問題をめぐる「国民基金」型の「和解」モデルの再来に備えて、あらかじめ批判を無力化しておくための発言とも考えられる。 こうした「和解」のねらいについて、最もあけすけに発言してきたのは、同じく「国民基金」を推進した大沼保昭であろう。最近、『朝日新聞』に掲載された「日本の愛国心」と題されたインタビュー(2014年4月16日付朝刊)でも、次のように語っている。
中韓との「和解」と「日米安保体制の充実」はセットというわけだ。大沼は「戦後日本は過去を反省し、世界の国々から高く評価される豊かで平和で安全な社会をつくり上げた。それを私たちの誇りとして描き出さず、戦前・戦中の日本に焦点を当てて、愛国か反省かの二者択一の極論を見せ続けた。その結果、いびつな愛国心が市民に広がった」とも述べており、日本のメディアが反省ばかり求めたから戦後日本への「誇り」を持てずに右傾化が進んだのだ、という認識を示している。いずれにしても、日本をなだめるためには戦後日本を認めてやることが必要だ、ということである。 他方、中国の日本批判については「百年国恥の屈辱感の裏返しである現在の中国の攻撃的な路線が永久に続くわけではない。対立するより、諸国と共に中国の過剰な被害者意識をなだめ、卒業してもらう工夫を日本はするべき」とし、具体的には日本の「ソフトパワー」、すなわち「製造業やサービス業、医療のシステム、アニメやファッション、さらには秩序だった市民生活のルール」を使って「中国の懐に入り込み、ウインウインの関係をつくり出すべき」と説いている。ここまであからさまにパターナリスティックな姿勢を示されて受け容れる者がいるとは思えないが、大沼自身の中国認識は非常によく伝わってくる。 和田と大沼はそれぞれ別の対象に向かって似たようなことを言っているのだが、こうした右傾化の原因を日本批判に求める言説は、昨年韓国で出版された朴裕河『帝国の慰安婦 植民地支配と記憶の闘争』(根と葉っぱ、ソウル、2013年)にもみられる。
日本と韓国の「進歩」が「国民基金」を提案した日本政府を信頼せずに「右傾化」とばかり批判し続けた結果、「慰安婦」問題に反発する人びとを大量に生み出したというわけだ。この『帝国の慰安婦』は前著の『和解のために』よりもさらに踏み込んだ叙述のオンパレードで、読んでいて驚かされることしきりである。例えば、ある元「慰安婦」が一人の日本兵のことを忘れられないと語った証言を引用した後に、次のような解釈を提示する。
これは決して例外的な記述ではなく、むしろ「同志的な関係」という言葉はこの本のキーワードの一つである。『帝国の慰安婦』の「後記」には「批判者たちは日本で私の本が高く評価されたこと(朝日新聞社が主催する「大佛次郎論壇賞」受賞)を指して日本が右傾化したためだと語り、私があたかも日本の右翼と似た主張をしたかのように扱った」(317頁)と自らが不当にも右翼扱いされたと、暗に徐京植や尹健次による批判を示唆しながら反発しているが、こうした記述を読むと「日本の右翼と似た主張」といわれても仕方がないだろう。この本は日本語に翻訳されるそうだ。「国民基金」の再来とあわせて、出版後にどういった「評価」がなされるのか、注視する必要がある。 (鄭栄桓)
by kscykscy
| 2014-04-19 00:00
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