やはり橋下府知事を朝鮮学校に入れるべきではなかった――朝鮮学校と高校「無償化」問題⑦

 橋下は予定通り朝鮮学校を「視察」し、高校「無償化」と何の関係もない肖像画問題等で朝鮮学校を恫喝した。テレビに映し出されたのは、強要された「歓迎」のなか、敢然と「不法国家」との関係をただす橋下知事と、話さなくてもいいことまで話し、しなくてもいい「約束」までしてしまった大阪朝高側関係者の哀れな姿だった。

 私は橋下の「視察」そして恫喝は日本のおおよそのメディアの支持のもとに行われたものとみるべきだと思う。何より橋下の行動は新聞各紙の論調とそうずれているわけではない。『朝日』は、今後肖像画は無くなっていくだろう、だから無償化から除外するな、と主張していた(「案の定の『朝日新聞』社説――朝鮮学校と高校「無償化」問題③」参照)。他紙も似たようなものである。テレビも嬉々として橋下の「視察」を報道したように見える。橋下=『産経』と見るのは誤りであって、むしろ『産経』の本音からすれば中井拉致担当相の「橋下知事は甘い」という意見に近いだろう。条件を満たせば「無償化」に入れてやるなんてこといってないで、さっさとつぶしてしまえというのが中井=『産経』の主張だからだ。

 不当な橋下の「視察」を朝鮮学校側が受け入れざるを得なかったのは、こうしたメディア全体の圧力があったからと見るべきだ。もし『産経』だけが跳ねて、『朝日』や『毎日』が「高校課程相当なのだから朝鮮学校だけ改めて調査するのはおかしい」というまっとうな論陣を張っていれば、こんなことにはならなかったはずである。こうした惨状を惹起した責任は各紙とも等しい。

 しかも、現政権は結局「政治主導」どころか朝鮮学校の判断を文科省及び「第三者機関」なるものに丸投げしてしまったため、大学受験資格の例で見るならば、判断そのものが今後都道府県知事に丸投げされることすら考えうる。大学受験資格問題の際、文科省は結局自らが朝鮮学校を承認することを放棄し、各大学に判断を丸投げしてしまった。つまり現在は各大学が朝鮮学校生徒・卒業生個々人の受験資格を認めているのであって、日本政府が朝鮮学校の大学受験資格を認めているわけではないのである。このパターンでいくならば、都道府県知事に受給権者の受給資格の認定が丸投げされるのも、あながち杞憂ともいえない。

 あくまで重要なことは「高等学校等」に朝鮮学校を即時含めることであって、「第三者機関」とやらに別の抜け道を作らせてはならない。ここでは、現行の法律案における都道府県知事の権限について、「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律案」(以下、法律案)をもとに確認しておこう(法律案は文部科学省のHPで読むことができる)。

 まずは今般の議論に関わる条文を確認しておこう。関連する条文は法律案の第二条にあり、ここではこの法律における「高等学校等」の定義を列挙しているが、今回の件に関わる部分はそのうちの第五項である。

「五 専修学校及び各種学校(これらのうち高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるものに限り、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校以外の教育施設で学校教育に類する教育を行うもののうち当該教育を行うにつき同法以外の法律に特別の規定があるものであって、高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるものを含む。)」

 この条文は非常に読みづらいが、大きく二つのことが述べられている。第一は専修・各種学校のうち「高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるもの」については就学支援金支給対象とするということ。第二は学校教育法第一二四条及び第一三四条で専修学校・各種学校の定義から除外されている「当該教育を行うにつき他の法律に特別な規定のあるもの」でも、「高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるもの」については就学支援金の支給対象に含めるということである。ちなみに「当該教育を行うにつき他の法律に特別な規定のあるもの」とは、職業安定法に基く職業補導所、児童福祉法に基く保育所等である。

 もし国会での議論の焦点となるとすれば、この第二条第五項に定められた各種学校のうち「高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるもの」の範囲に朝鮮学校が含まれるのかどうか、「高等学校の課程に類する課程を置くもの」かどうかをどのように確認するのか、である。しかし実際には朝鮮学校が「高等学校の課程に類する課程を置く」かどうかは脇においやられ、法案の内容と何ら関係のない教育「内容」や朝鮮民主主義人民共和国からの教育援助費、果ては「肖像画」といった学校施設に関する事項にまで議論が飛び火したのはすでに記したとおりである。

 次に、仮に朝鮮学校が「高等学校等」に含まれた場合の都道府県知事の権限について見てみよう。法律案は第五条で以下のように定めている。 

「第五条 前条第一項に規定する者(同条第二項各号のいずれかに該当する者を除く。)は、就学支援金の支給を受けようとするときは、文部科学省令で定めるところにより、その在学する私立高等学校等(その者が同時に二以上の私立高等学校等の課程に在学するときは、その選択した一の私立高等学校等の課程)の設置者を通じて、当該私立高等学校等の所在地の都道府県知事(当該私立高等学校等が地方公共団体の設置するものである場合(当該私立高等学校等が特定教育施設である場合を除く。)にあっては、都道府県教育委員会)に対し、当該私立高等学校等における就学について就学支援金の支給を受ける資格を有することについての認定を申請し、その認定を受けなければならない。

  つまり、就学支援金の支給を受けるには、受給権者は高等学校等の設置者を通じて所在地の都道府県知事に対し受給資格を有することについての認定を申請し、都道府県知事はそれを認定する、と記されている。大阪の例でいえば、大阪朝高に就学する者は、大阪朝高の設置者を通じて橋下府知事に受給資格を有することについての認定を申請するということである。

 ここで注意すべきは、都道府県知事が認定できるのは、受給資格そのものではなく、「受給資格を有すること」の認定であるということである。若干ややこしいが重要なポイントなので、就学支援金の受給資格について定めた法律案の第四条を見てみよう。

「第四条 高等学校等就学支援金(以下「就学支援金」という。)は、私立高等学校等に在学する生徒又は学生で日本国内に住所を有する者に対し、当該私立高等学校等(その者が同時に二以上の私立高等学校等の課程に在学するときは、これらのうちいずれか一の私立高等学校等の課程)における就学について支給する。
2 就学支援金は、前項に規定する者が次の各号のいずれかに該当するときは、支給しない。
 一 高等学校等(修業年限が三年未満のものを除く。)を卒業し又は修了した者
 二 前号に掲げる者のほか、私立高等学校等に在学した期間が通算して三十六月を超える者
3 〔略〕」


 法律案はこのように「受給資格」の範囲をあらかじめ定めている。よって、都道府県知事はここに列挙された「私立高等学校等に在学する生徒又は学生」かどうか、「日本国内に住所を有する者」かどうか、あるいは「高等学校等(修業年限が三年未満のものを除く。)を卒業し又は修了した者」ではないか、「私立高等学校等に在学した期間が通算して三十六月を超える者」ではないかなどの基準に照らし、受給権者が「受給資格を有すること」を認定することになる。

つまり、少なくとも現行の法律案では、都道府県知事がその学校が「不法国家」の指導者の「肖像画」を掲げているかどうか、「朝鮮総連と一線を画している」かどうか、などの「独自の基準」に照らして受給資格を認定する権限はない。都道府県知事はあくまで法の規定に照らして「受給資格を有すること」の認定を出すことができるだけであって、独自に「受給資格」を与えたり、奪ったりする権限は無い。

 ただ、この法律案が都道府県知事に認めているのは、「この法律の施行に必要な限度において、受給権者、その保護者等若しくは支給対象高等学校等の設置者(国及び都道府県を除く。)若しくはその役員若しくは職員又はこれらの者であった者に対し、報告若しくは文書その他の物件の提出若しくは提示を命じ、又は当該職員に質問させること」(第十七条第一項)に過ぎない。「法律の施行に必要な限度」という文言も、あくまで第四条の「受給資格を有すること」を認定する際に必要な情報の提示に限られると読むべきである。これは、第十七条第三項が「第一項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」と念を押していることからもわかる。

 今般の橋下府知事の朝鮮学校「視察」は、国からの就学支援金に上乗せする大阪府独自の支援補助金の拠出に関する「視察」だったわけだが、少なくとも政府レベルの認定基準と照らしても、肖像画や「誓約書」云々といった大阪府「独自」の判断基準は、明らかに「高等学校の課程に類する課程を置くもの」という基準を大幅に踏み外したものである。現行の法律案では都道府県知事には朝鮮学校の教育「内容」を独自に調査するなどして受給資格の付与を判断する権限は与えられていないが、今後こうした「大阪モデル」が就学支援金の方向へと拡張していく可能性もないわけではなく、その際、都道府県知事がこれらの認定・調査権限を濫用する可能性は否定できない。最も恐れるべきは橋下の恫喝が、日本全体の高校「無償化」の標準になっていくことである。

※なお3月15日18時付で掲載した記事は一部事実の誤りがあったため、修正の上差し替えた。
by kscykscy | 2010-03-15 23:28 | 朝鮮学校「無償化」排除問題
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