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「旧臣民への施恵」ならばお断りだ――小沢一郎の参政権論について

 以前、2000年前後の永住外国人参政権論議の過程で推進派側から、「旧臣民の論理」と「同化の論理」が繰り返し提起されたことに触れた(「「多民族社会」日本の構想」参照)。この問題は非常に重要なので、この場を借りて再論したい。

 「旧臣民の論理」と「同化の論理」について以前の記事では公明党を取り上げたが、これについては民主党もそう変わらないようである。小沢一郎のHPには自由党時代の2003年に小沢が発表した「永住外国人の地方参政権について」という文章が掲載されている。特に訂正もされずに掲載されていることから、とりあえず現時点でも小沢はどうようの立場であると仮定しよう。ここで小沢は次のように記している。

「公の政治に参加する権利―参政権―が国家主権にかかわるものであり、また、国民の最も重要な基本的人権であることに間違いはなく、その論理は正当であり、異論をさしはさむ気はまったくありません。ただ、政治的側面から考えると、主として永住外国人の大半を占める在日韓国・北朝鮮の人々は、明治43年の日韓併合によって、その意に反して強制的に日本国民にされました。すなわち、日本が戦争によって敗れるまでは、大日本帝国の同じ臣民でありました。日本人としてオリンピックに参加し、日の丸を背負い金メダルを取っています。また、日本のために多くの朝鮮の方々が日本人として、兵役につき、戦い、死んでいきました。このような意味においては、英連邦における本国と植民地の関係よりもずっと強く深い関係だったと言えます。私達はこのような歴史的な経過の中で今日の問題があることを忘れてはなりません。」

 「在日韓国・北朝鮮の人々」は強制的に日本国民にされました、オリンピックにも出ました、日本のために多くの人々が戦争で戦い死にました、こういう「歴史的な経過」があります、という話である。特に注目すべきは日本のために朝鮮人も戦争に行って死んだ、という部分だろう。確かに朝鮮人も侵略戦争に駆り出された。自分が植民地支配されているにも関わらず、その手先にさせられて中国や東南アジアで「敵」と戦い侵略軍の一員として死んだ朝鮮人は決して少なくない。それを小沢は日本軍の侵略への評価は素通りしつつ、曖昧に「強く深い関係」と呼ぶ。この文章の趣旨からいえば、こういう「歴史的な経過」があるんだから、永住外国人の地方参政権は肯定されるべきだと主張していると言っていいだろう。同じ日本人だったのだから、一緒に「敵」を殺したのだから、地方参政権を与えようよ、と訴えているわけである。

 続けて小沢は反対論を念頭に次のように記している。

「法案に反対する人達の多くの方の主張は「そんなに参政権が欲しければ帰化をして日本国籍を取得すればいい」という考え方があります。私もそれが一番いい方法だと思っておりますし、また在日のほとんど多くの人々の本心であると思います。

 しかし、このことについては日本側・永住外国人側双方に大きな障害があります。日本側の問題点からいうと、国籍を取得する為の法律的要件が結構厳しいということと同時に、制度の運用が、(反対論の存在が念頭にあるせいなのかはわかりませんが)現実的に非常に帰化に消極的なやり方をしています。〔中略〕

 一方、永住外国人のほとんど多くの人は日本で生まれ育って、まったくの日本人そのものであり、その人達が日本人として生涯にわたって生きていきたいと願っていることは、紛れもない事実だと私は思います。ただ、過去の併合の歴史や、それに伴う差別や偏見に対して心にわだかまりがあるのも事実なのです。」


 小沢は帰化論を「一番いい方法」だといい、「在日のほとんど多くの人々の本心」と勝手に在日朝鮮人の「本心」を騙っている。だが「日本側・永住外国人側双方に大きな障害」がある。つまり日本側には厳格な帰化要件が、「永住外国人側」には「過去の併合の歴史や、それに伴う差別や偏見」への心の「わだかまり」がある、だから一気に帰化にはいかないのだ、と小沢はいうのである。帰化について小沢は率直に「以上のような政治的側面、制度的側面双方から考え合わせ、一定の要件のもとに地方参政権を与えるべきだと考えます。そして、そのことにより日本に対するわだかまりも解け、また、結果として帰化も促進され、永住外国人が本当によき日本国民として、共生への道が開かれることになるのではないでしょうか」とあけすけに語っている。

 つまり小沢がいっているのは、参政権反対論者がいうように帰化するのが最善の策だし、在日朝鮮人も実はそう思っている、だけど今は「障害」があるから地方参政権を与え、ひいては「よき日本国民」への帰化が促進されるようにしましょう、という話である。しかも、この文章に付された「補足」というのが奮っている。

「※補足
 この問題につきましては、意見が多数寄せられ、少数の方からの反対意見が寄せられたので、さらに補足として申し上げます。
反対意見に、「北朝鮮に支配されている北鮮系の総連の方に、地方参政権を与えるのはとんでもない」という意見がありましたが、我々自由党では国交のない国(北朝鮮等)の出身の方は参政権付与の対象にしないという考えです。

 国政を預かる政治家として、ホームページ上で自分の考える全てのことを申し上げることはできませんが、この問題は主として、在日の朝鮮半島の方々の問題であることからあえて申し上げます。もし仮に朝鮮半島で動乱等何か起きた場合、日本の国内がどういう事態になるか、皆さんも良く考えてみてください。地方参政権付与につきましては、あらゆる状況を想定し考えた末での結論です。」


 まったく堂々としたものである。「併合の歴史」や「差別や偏見」に対する心の「わだかまり」を帰化を妨げる「永住外国人側」の障害として列挙する歴史認識といい、あからさまな帰化論といい、「北鮮系」と平然と引用する感覚といい、少し前であればこんな議論は「妄言」と呼ばれていたはずだ。今般の参政権論議の過程で小沢のこの文章は比較的取り上げられているようであり、参政権反対派は小沢のさらに右からこれを叩いているが、賛成派がこれを批判した文章を読んだことがない。

 この小沢の議論は、噛み砕いていえば、在日朝鮮人・台湾人は大日本帝国の「臣民」だったんだし(「旧臣民の論理」)、もうほとんど日本人なんだから(「同化の論理」)地方参政権くらいあげようよ、どうせすぐ帰化するから安心してくださいよ反対派のみなさん、という話である。外国人の政治的権利など全く眼中に無いし、そもそも外国人参政権論と読んでいいのかどうかすら怪しい。小沢は白昼堂々・公然とこの文章を陳列しているわけで、参政権推進論者は完全になめられていると思ったほうがいい。

 繰り返しになるが、小沢の言っている「永住外国人の地方参政権」なるものは、「旧臣民への施恵」に過ぎない。そんなものはお断りだ。
by kscykscy | 2009-12-01 21:59
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