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外国人参政権と「中国脅威」論

 永住外国人の地方参政権について原口総務大臣は「サンフランシスコ講和条約で日本国籍を離脱しなければならなかった特別永住外国人への付与と、それ以外の人とでは全く議論が違う」と語ったとのことだ(『日経』1月30日付web版)。また、仙谷行政刷新担当大臣は「戦前の(朝鮮半島への)植民地侵略の歴史があり、その残滓(ざんし)としての在日問題がかかわっているので、その方々の人権保障を十二分にしなければならない。地方参政権も認めていくべきだ」と強調し、参政権の範囲についても「小さな議論だ。もう少し大きく広い、深い議論をする必要がある」と言ったという(時事ドットコム1月15日付web版)。

 このように民主党政権の閣僚たちは、最近になって「旧臣民」たる朝鮮人が参政権問題をめぐる独特の地位を有していることに盛んに言及している。仙谷と原口には若干のニュアンスの違いがあるようだが(少なくとも仙谷の言っていることを言葉通り受け取れば反対する理由はない)、私としてはこれらの発言は、中国籍者外しのための前ふりなのではないかと疑っている。

 外国人参政権問題について最も強く反対の論陣を張っている『産経新聞』であるが、その主調をなしているのは「中国脅威」論である。例えば以下の櫻井よし子の主張を見てみよう。

 「いま参政権問題は特別永住外国人への参政権付与という数年前の議論とは様相を変えている。戦前日本国民として日本に移住し、戦後、自らの意思で帰国せず日本に残った人たちとその子孫である特別永住者の参政権問題だったはずが、民主党の提案は、特別永住者を超えて一般の永住外国人を対象にしているのだ。そしてこの中には急速に増えつつある中国人が含まれている。
 日本在住外国人の中でいま最大のグループは65万5000人余の中国人である。うち14万2000人が永住権を取得済みだ。年に約1万人ずつ帰化し、減少し続けている朝鮮半島出身の特別永住者とは対照的に、永住権を取得する中国人の増加は際立っている。
 民主党提案の外国人参政権法案の先に、中国共産党の党員が日本で投票権をもち、日本の政治を動かすという事態の発生も考えなければならない。
 これは共生や友愛の問題ではない。国家としての理念と国益の問題である。」


 冒頭の櫻井の理解は事実誤認である。外国人参政権の付与対象は、当初永住外国人全体だったのが、外国人登録の国籍欄が国名ではない者以外となり、ついで相互主義へと縮小されていったのである。少なくとも相互主義の規定が入るまで一貫して中国籍者は付与対象に含まれていた。それを今般の議論のさなかに『産経』が問題視し始めたのである。櫻井が無知からこうしたことを言っているならば最低限の事実を学んで発言するべきであるし、知った上での発言ならば悪質な世論の誤導である。

 加えて、より問題であるといえるのは「中国共産党の党員が日本で投票権をもち、日本の政治を動かすという事態の発生も考えなければならない」という箇所である。ここでは、個々の中国人の投票行動の背後に共産党による直接の操縦があるかのようにみなされている。こうした類の言説は、通常の「中国脅威」論の何倍も悪質である。

 なぜなら、この議論は中国という国家の持つ軍備をもって安全保障上の脅威とみなす「中国脅威」論ですらなく、個々の中国人への選挙権付与が中国共産党による日本政治の操縦につながると主張しているからだ。通例の「中国脅威」論自体にももちろん問題はあるが、ここでの櫻井の議論は、そもそも軍備等にすら根拠を置いておらず、その根柢にあるのは中国共産党員たる中国人への選挙権付与=中国共産党による日本政治の操縦という反証不可能な妄想でしかない。

 当然中国人には共産党員である者もいるだろう。仮に選挙権が与えられた場合に、地方自治体の選挙における投票行動が、中国政府の「利益」と一致するケースもあるかもしれない。だが、もし日本社会が櫻井のこうした認識を受け入れることにならば、仮にこれらが外観上一致した場合に、中国籍者たちはかかる投票行動が中国共産党の指示によりなされたのではないかとの疑念を日本社会から絶えず向けられることになる。そしてこうした疑念を晴らすことは、その疑念の性質上絶対に不可能なのである。

 櫻井の言説は以前に橋下府知事が在日朝鮮人に対して行った発言と同種の問題を抱えており、こうした言説は、参政権問題への賛成・反対といった問題を越えて、それ自体が中国籍者個々人に対する「脅威」視をうながすヘイト・スピーチであると言わざるを得ない。

 このように『産経』は反対の論陣を張る際に立論の根拠として悪質な「中国脅威」論を援用しているのであるが、民主党政権の閣僚たちがこうした反対論を全く知らないとは到底考えられない。むしろ現在の参政権をめぐる議論のなかで、「中国脅威」論的反対論が非常に根強いことを政権当事者たちは理解しているのではないか。だから、冒頭で述べたように原口や仙谷はしきりに「旧植民地」のことに言及しているのではないだろうか。技術的には相互主義の水準に戻るということである。すでに朝鮮籍者を外すことについてはある程度「合意」があると考えられるので、相互主義を採ればもれなく中国籍者も外すことができる。韓国籍者は対象になるので韓国政府との外交関係も安心である。

 あくまで以上の見立ては一つの推測に留まるが、少なくともこれを阻止する要因は日本社会のどこにも存在しない。民団はそもそも韓国籍者だけが通ればよいのであるし、日本人の「左翼」「リベラル」を自称する人々の多くは、とりあえず外国人参政権が実現すれば内容は何でもよいというスタンスなのだから、政界内でいかに反外国人的な認識をもとにした談合が行われようと、何ら問題は無いのだろう。例えば以下の「超左翼おじさん」こと松竹伸幸氏の文章などはそうした「左翼」の議論の典型である。

 「現在の日本社会の到達では、日本人と外国人の共存の仕方というのが、この程度なのだ。どんなに理論的には参政権を付与すべきだと言っても、現状の到達を飛び越えて、一挙に先をめざすというのは、問題が多い。
 だから私は、小さな一歩というものを提唱する。被選挙権などは問題にしないでいい。国交のある国に限って、相互主義でもいい。あるいは、もっと小さな一歩でもいい。実際に一歩を踏み出してみるのだ。」


 ある権利が制限される過程でいかなる認識が社会的にばら撒かれるのか、それが当事者たる外国人にいかなる影響をもたらすのかについて、これほどの無感覚を示す者を果して「左翼」と呼んでよいのだろうか(左翼を「超」えているのだから左翼ではないのかもしれないが)。この間の議論を見ていてわかったことは、少なくとも現在の日本には『産経』並みの熱量でもって外国人の政治的権利を擁護しようとする「左翼」が、存在しないという事実である。とても勉強になった。
by kscykscy | 2010-02-02 00:56 | 外国人参政権

「旧臣民への施恵」ならばお断りだ――小沢一郎の参政権論について

 以前、2000年前後の永住外国人参政権論議の過程で推進派側から、「旧臣民の論理」と「同化の論理」が繰り返し提起されたことに触れた(「「多民族社会」日本の構想」参照)。この問題は非常に重要なので、この場を借りて再論したい。

 「旧臣民の論理」と「同化の論理」について以前の記事では公明党を取り上げたが、これについては民主党もそう変わらないようである。小沢一郎のHPには自由党時代の2003年に小沢が発表した「永住外国人の地方参政権について」という文章が掲載されている。特に訂正もされずに掲載されていることから、とりあえず現時点でも小沢はどうようの立場であると仮定しよう。ここで小沢は次のように記している。

「公の政治に参加する権利―参政権―が国家主権にかかわるものであり、また、国民の最も重要な基本的人権であることに間違いはなく、その論理は正当であり、異論をさしはさむ気はまったくありません。ただ、政治的側面から考えると、主として永住外国人の大半を占める在日韓国・北朝鮮の人々は、明治43年の日韓併合によって、その意に反して強制的に日本国民にされました。すなわち、日本が戦争によって敗れるまでは、大日本帝国の同じ臣民でありました。日本人としてオリンピックに参加し、日の丸を背負い金メダルを取っています。また、日本のために多くの朝鮮の方々が日本人として、兵役につき、戦い、死んでいきました。このような意味においては、英連邦における本国と植民地の関係よりもずっと強く深い関係だったと言えます。私達はこのような歴史的な経過の中で今日の問題があることを忘れてはなりません。」

 「在日韓国・北朝鮮の人々」は強制的に日本国民にされました、オリンピックにも出ました、日本のために多くの人々が戦争で戦い死にました、こういう「歴史的な経過」があります、という話である。特に注目すべきは日本のために朝鮮人も戦争に行って死んだ、という部分だろう。確かに朝鮮人も侵略戦争に駆り出された。自分が植民地支配されているにも関わらず、その手先にさせられて中国や東南アジアで「敵」と戦い侵略軍の一員として死んだ朝鮮人は決して少なくない。それを小沢は日本軍の侵略への評価は素通りしつつ、曖昧に「強く深い関係」と呼ぶ。この文章の趣旨からいえば、こういう「歴史的な経過」があるんだから、永住外国人の地方参政権は肯定されるべきだと主張していると言っていいだろう。同じ日本人だったのだから、一緒に「敵」を殺したのだから、地方参政権を与えようよ、と訴えているわけである。

 続けて小沢は反対論を念頭に次のように記している。

「法案に反対する人達の多くの方の主張は「そんなに参政権が欲しければ帰化をして日本国籍を取得すればいい」という考え方があります。私もそれが一番いい方法だと思っておりますし、また在日のほとんど多くの人々の本心であると思います。

 しかし、このことについては日本側・永住外国人側双方に大きな障害があります。日本側の問題点からいうと、国籍を取得する為の法律的要件が結構厳しいということと同時に、制度の運用が、(反対論の存在が念頭にあるせいなのかはわかりませんが)現実的に非常に帰化に消極的なやり方をしています。〔中略〕

 一方、永住外国人のほとんど多くの人は日本で生まれ育って、まったくの日本人そのものであり、その人達が日本人として生涯にわたって生きていきたいと願っていることは、紛れもない事実だと私は思います。ただ、過去の併合の歴史や、それに伴う差別や偏見に対して心にわだかまりがあるのも事実なのです。」


 小沢は帰化論を「一番いい方法」だといい、「在日のほとんど多くの人々の本心」と勝手に在日朝鮮人の「本心」を騙っている。だが「日本側・永住外国人側双方に大きな障害」がある。つまり日本側には厳格な帰化要件が、「永住外国人側」には「過去の併合の歴史や、それに伴う差別や偏見」への心の「わだかまり」がある、だから一気に帰化にはいかないのだ、と小沢はいうのである。帰化について小沢は率直に「以上のような政治的側面、制度的側面双方から考え合わせ、一定の要件のもとに地方参政権を与えるべきだと考えます。そして、そのことにより日本に対するわだかまりも解け、また、結果として帰化も促進され、永住外国人が本当によき日本国民として、共生への道が開かれることになるのではないでしょうか」とあけすけに語っている。

 つまり小沢がいっているのは、参政権反対論者がいうように帰化するのが最善の策だし、在日朝鮮人も実はそう思っている、だけど今は「障害」があるから地方参政権を与え、ひいては「よき日本国民」への帰化が促進されるようにしましょう、という話である。しかも、この文章に付された「補足」というのが奮っている。

「※補足
 この問題につきましては、意見が多数寄せられ、少数の方からの反対意見が寄せられたので、さらに補足として申し上げます。
反対意見に、「北朝鮮に支配されている北鮮系の総連の方に、地方参政権を与えるのはとんでもない」という意見がありましたが、我々自由党では国交のない国(北朝鮮等)の出身の方は参政権付与の対象にしないという考えです。

 国政を預かる政治家として、ホームページ上で自分の考える全てのことを申し上げることはできませんが、この問題は主として、在日の朝鮮半島の方々の問題であることからあえて申し上げます。もし仮に朝鮮半島で動乱等何か起きた場合、日本の国内がどういう事態になるか、皆さんも良く考えてみてください。地方参政権付与につきましては、あらゆる状況を想定し考えた末での結論です。」


 まったく堂々としたものである。「併合の歴史」や「差別や偏見」に対する心の「わだかまり」を帰化を妨げる「永住外国人側」の障害として列挙する歴史認識といい、あからさまな帰化論といい、「北鮮系」と平然と引用する感覚といい、少し前であればこんな議論は「妄言」と呼ばれていたはずだ。今般の参政権論議の過程で小沢のこの文章は比較的取り上げられているようであり、参政権反対派は小沢のさらに右からこれを叩いているが、賛成派がこれを批判した文章を読んだことがない。

 この小沢の議論は、噛み砕いていえば、在日朝鮮人・台湾人は大日本帝国の「臣民」だったんだし(「旧臣民の論理」)、もうほとんど日本人なんだから(「同化の論理」)地方参政権くらいあげようよ、どうせすぐ帰化するから安心してくださいよ反対派のみなさん、という話である。外国人の政治的権利など全く眼中に無いし、そもそも外国人参政権論と読んでいいのかどうかすら怪しい。小沢は白昼堂々・公然とこの文章を陳列しているわけで、参政権推進論者は完全になめられていると思ったほうがいい。

 繰り返しになるが、小沢の言っている「永住外国人の地方参政権」なるものは、「旧臣民への施恵」に過ぎない。そんなものはお断りだ。
by kscykscy | 2009-12-01 21:59 | 外国人参政権

「我が国と外交関係のある国の国籍を有する者」について

 「永住」外国人の地方参政権法案の提出は次期国会以降に見送られることになった。右派との調整がつかなかったとか、他の重要法案を優先したとか色々言われているが、そんなことはどうでもよい。この数日の動きのなかで唯一記憶に留めるに値することは、今国会で提出される予定だった法案(以下、民主党案)が「永住」外国人のうち「我が国と外交関係のある国の国籍を有する者やこれに準ずる地域を出身地とするもの」に限って地方参政権を付与する、という留保を付けていたということである。『朝日新聞』はこれについて「特別永住者については当面、国交のある韓国籍を持つ人か、「準ずる地域」として国交はないが交流の活発な台湾の関係者に限る立場をとる」(『朝日新聞』11月9日web)と解説している。すなわち、民主党は「外交関係のある国の国籍を有する者」という論法で朝鮮籍者を排除しつつ、「これに準ずる地域を出身地とするもの」との規定を入れて「台湾の関係者」を包含しようとした、というのが民主党案についての『朝日』の解釈である。

 『産経』はこれについて「当面は国交のない北朝鮮の出身者には与えない」とあからさまに誤った解説をしているが(『産経新聞』11月10日web)、私はこれは確信犯だと思う。朝鮮籍者が「北朝鮮の出身者」ではないことくらい、『産経』の記者でもわかっているはずだ。わかっていて印象操作のためにデマを流しているとしか思えない。こうした悪質極まりない『産経』の姿勢に比べれば、『朝日』は比較的丁寧に説明しているように見える。だが『朝日』の解釈は果たして妥当なのだろうか。実は『産経』の確信犯的事実誤認の記事により、こっちのほうが重要なポイントなのであるが、その検討に入る前に、さしあたり『朝日』の解釈に従い、今回の民主党案をこれまでの参政権法案のなかに位置づけるかたちで整理しておこう。

 以前書いたように、これまで公明党が提出してきた地方参政権法案は、対象となる範囲について①「永住」外国人一般→②「外国人登録原票の国籍の記載が国名によりされている者」→③地方「選挙権を日本国民に付与している国」の国民へと、自民党に配慮して順次その幅を狭めてきた(「多民族社会」日本の構想)。今回の民主党案をこのなかに位置づけるならば、ほぼ②に近いものといえよう。

  「ほぼ」という留保をつけたのは以下の理由からである。②の「外国人登録原票の国籍の記載が国名によりされている者」という規定であれば、同記載が「中国」となっている「台湾の関係者」は参政権付与対象に包含される。一方、「朝鮮」というのは政府見解によれば「国名」ではないから対象には含まれない。ここまでは②と全く同じである。ただ、「台湾の関係者」の中には少数ながら外国人登録原票の国籍表示が「無国籍」となっている者がおり、この人々は②では対象とならないが民主党案では対象に含まれることになる。よって「ほぼ」②と同じである。(ただし、要綱あるいは法案が公表されたわけではないので、あくまで報道が正しければの話である)。

 新聞はおおむね③と比較して民主党案が対象を拡大したというニュアンスでこれを伝えている。『朝日』と『産経』がいずれも「『相互主義』はとらず」というタイトルをつけたのは象徴的である。だが、前述した経過を見れば少なくとも90年代の法案と比較しても、民主党案には大いに問題があることは言うまでも無い。そもそも、各案の違いはどこで外国人を分割するか、つまり「どう差別するか」の違いに過ぎず、「朝鮮籍=北朝鮮籍」という規定を前提にこれを排除し、かつ台湾を包含するのはあくまで外国人を「国益」を実現するためにいじくれる外交の道具だと思っているからである。そこには人権という視点は皆無である。

 むしろ今回の民主党案から確認できるのは、この線引きにあたって民主党が採用した論法が、2002年9月17日以降の自公政権のそれと強い連続性を有していることである。「国交のある国+台湾」という枠組みで「朝鮮」を排除するというやり方は、2003年に「9.17」以降の反朝鮮の排外主義の高まりを受けて文科省が作り出した論法であり、民主党はこうした排除の枠組みをまるごと自公政権から継承しているといってよいだろう。

 だが、より重要な問題は先にも述べたように、そもそも「我が国と外交関係のある国の国籍を有する者やこれに準ずる地域を出身地とするもの」にのみ地方参政権を与える、という規定を挟み込むことが、当然に朝鮮籍者を排除することにつながるのか、という問題である。『朝日』は当たり前のように「特別永住者については当面、国交のある韓国籍を持つ人か、「準ずる地域」として国交はないが交流の活発な台湾の関係者に限る立場をとる」と解説し、おそらく民主党がそういったのを鵜呑みにしたのだろうが、実は問題はそう単純ではない。

 なぜかというと、そもそも外国人登録原票上の国籍が「朝鮮」である者の帰属を決める権利は、日本政府には無い。外国人登録法は日本法なのであるから、そこに「朝鮮」と書いていようがみな潜在的には韓国国民なのである、と韓国側が言うことは可能である。今回の参政権法案からの朝鮮籍排除についても、「あなたの作った法律上の表記がどうであろうが、みな韓国国民なのであるから外国人登録上の表記が「韓国」の者と同様に、地方参政権を与えなさい。韓国国民を差別するのはやめなさい」と日本政府に注文をつけることは可能なのである。これは別に荒唐無稽な話ではない。少なくとも実体法のレベルでは韓国政府は朝鮮籍者について潜在的な韓国国籍者とみなしており、だからこそ朝鮮籍者の韓国国籍取得手続は外国人の帰化手続よりもはるかに容易なのである。

 以前私は橋下大阪府知事の発言に寄せて、日本政府の見解によれば外国人登録原票の「国籍」表記上の「朝鮮」は地域名であった国名ではないにもかかわらず、橋下が日本にいる「北朝鮮籍の人」に「北朝鮮の今の体制について厳しく批判しないといけない」と述べたことを批判した(橋下発言と世界「提言」、そして在日朝鮮人の「責任」)。だがそれはあくまで日本政府の見解の整合性を問題にしたものである。韓国政府やメディアが日本政府見解を採用する必要は無い。

 つまり、「我が国と外交関係のある国の国籍を有する者やこれに準ずる地域を出身地とするもの」という規定は、もし韓国政府が「朝鮮籍者は韓国国民である」といってしまうと朝鮮籍排除の規定として機能しなくなるのである。だが、韓国政府はそうは言わない。韓国政府の見解は表には出ていないので、現政権に近い韓国の保守系メディアの報道を見てみよう。民主党案を受けて韓国の保守系メディアは「在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)など日本国内の北朝鮮出身者は外国人地方参政権が得られない見込み」(『中央日報』11月11日web)、「日本と国交を結んでいない朝鮮籍の総連系の在日同胞には、地方参政権が与えられない」)『東亜日報』11月11日web)と、一様に「朝鮮籍=朝鮮総連=北朝鮮(出身者)」が地方参政権の付与対象から排除された、と報じた。これはあるいは無知から来るものかもしれないが、もし日本政府の解釈を知っていたとしても、現政権と近い保守系メディアは同様に報道しただろう。そう報道せざるを得ないのである。『産経』がわかっていて「朝鮮籍者=北朝鮮の出身者」というデマを流しているのとは若干事情が異なる。

 なぜならば、「朝鮮籍=北朝鮮籍」という規定を捨てると困るのは他ならぬ韓国政府自身だからである。日本国内メディアではあまり報道されていないが、李明博政権発足以降、韓国政府は朝鮮籍者に対する旅行証明書の発給をほぼ全面的に停止している。つまり、朝鮮籍者はいま韓国に入国することがほぼ不可能である。韓国政府がこうした措置をとっているのは、いうまでもなく「朝鮮籍=北朝鮮籍」と判断し、これへの旅行証明書発給停止が「北朝鮮制裁」になると考えているからである。

 よって韓国政府が参政権問題について「朝鮮籍=北朝鮮籍」という規定を放棄して、日本に注文を付けることになれば、こうした旅行証明書発給停止の根拠自体が揺らいでしまうことになる。このため、韓国政府が地方参政権付与対象から朝鮮籍を排除することを、「朝鮮籍=韓国国民」という立場から批判することは絶対に無い。現政権に近い保守系メディアはそれを知っているからこそ、参政権付与対象から「朝鮮籍=朝鮮総連=北朝鮮籍(出身者)」の在日朝鮮人が排除された、と報じるのである。そして韓国側がそれを言わないという前提があってこそ、「我が国と外交関係のある国の国籍を有する者やこれに準ずる地域を出身地とするもの」に対象を限定するという民主党案ははじめて朝鮮籍排除として機能することになる。ここには「北朝鮮制裁」を軸にした日韓の陰湿な共犯関係がある。

 日本政府としては、韓国が「朝鮮籍=北朝鮮籍」という判断を維持してくれることによって、朝鮮籍者の参政権排除に「北朝鮮制裁」としての意味を持たせることができる。ここからは、民主党案に対する『朝日』の解釈は、実は韓国側が『産経』的な解釈を捨てないことによってはじめて成立することがわかる。今般の地方参政権法案騒動に見て取るべきものは、この陰湿な共犯関係以外には無いのである。
by kscykscy | 2009-11-13 22:38 | 外国人参政権

民主党の植民地主義的再入国許可制度再編案

 前回触れた民主党の「在日朝鮮人に対する再入国許可禁止」という「制裁」案について、もう少し詳しく検討したい。植民地支配責任という観点からも、これは相当深刻な問題だからだ。

 現在の入管法、入管特例法は永住・特別永住資格を持つ外国人に対し、日本国外への一時渡航に際して再入国許可を得ることを義務づけている。この「再入国許可制度」については、大きく二つの立場からの批判がある。一つは在日朝鮮人団体が繰り返し主張してきたもので、人権論の見地からの批判。そしてもう一つは、いわゆる「規制緩和」の立場から、商用の外国人にとってこの制度は不合理で非効率であるという批判である。前者について政府はほとんど聞く耳を持ってこなかったが、後者の批判があるため、一時は新たな在留管理制度のもとで撤廃かとの観測もあった。

 だが一方で日本政府は、例えば朝鮮のミサイル発射実験以後の措置の一つに「在日の北朝鮮当局の職員による北朝鮮を渡航先とした再入国は原則として認めない」という項目を入れており、この再入国許可制度を対朝鮮制裁の手段として最大限活用している。

 しかし、今回報道されている民主党案は、渡航先や渡航主体の限定無しの「在日朝鮮人に対する再入国許可禁止」をうたっており、どう考えてもその適用範囲は政府の「制裁」措置よりもはるかに広い。ただ、こうした広範囲な再入国許可禁止案は決して新しいものではなく、2004年にいわゆる「西村眞吾私案」として拉致議連内で議論されたことがある。この「西村私案」は、一言でいえば入管特例法の改悪案なのだが、その内容は以下の通りだ。

 法務大臣は、特別永住者で次の各号のいずれかに該当するものに対しては、入管法第
二十六条第一項の規定による再入国の許可を与えない。

一 日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主
張し、又はこれを企て若しくは主張する団体を結成し、若しくはこれに加入している者
二 前号に規定する団体の目的を達するため、印刷物、映画その他の文書図画を作成
し、頒布し、又は展示することを企てる者
三 前二号に掲げる者を除くほか、法務大臣において日本国の利益又は公安を害する
行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者


 以上の項目を、入管特例法の第十条(再入国の許可の有効期間の特例等)に付け加えるとしている。ここに挙げられた三項目は、いずれも入管法第五条に定められた上陸拒否事由(十一号、十三号、十四号)で、それをそのまま再入国許可にあてはめようというのが、この「西村私案」の狙いである。現在、入管特例法は上陸審査の特例を設けているが、入国時の上陸拒否事由の審査から除外しているが、それを特別永住者にも適用しようというのである。

  西村自身はすでに民主党ではないが、過去のものを見る限りおそらく民主党案の「在日朝鮮人に対する再入国許可禁止」というのは、この「西村私案」と同様のものと推測される。つまり、入管特例法改悪を通じた特別永住許可者の再入国許可制限、あるいはそれに準じた措置を政府が「追加制裁」として取る、というやり方である。これならば「規制緩和」論者(海外含む)から評判の悪い再入国許可制度そのものは緩和するとしても、その多くが在日朝鮮人である特別永住者に対し在留規制をかけることができる。

 現行の再入国許可制度は、法の形式としては米国式の入管法に基づいているが、その実態においては、明らかに「一時帰鮮証明書」制度などの植民地期における在「内地」朝鮮人渡航規制との連続があると思われる。そう考えるならば、「西村私案」そして民主党案は、植民地民渡航規制という「本来の」あり方に、再入国許可制度を戻すものともいえるだろう。植民地時代の統治技術を今も日本政府が捨てきれないからこそ、再入国許可制度は維持されるのだ。

 昨今の在日朝鮮人団体に対する弾圧といい、この植民地主義的再入国許可制度の再編案といい、国交正常化交渉を前に、国内における朝鮮人支配体制の強化を平行してやっていくというのが、「侵略責任継承国」日本のやり方なのである。
by kscykscy | 2008-11-08 01:06 | 出入国/在留管理

日本独自の「制裁」と民主党の「制裁」案

  警視庁公安部による新宿商工会への強制捜査事件が起きた。また税理士法違反である。安倍政権下で朝鮮総連や関係機関、朝鮮学校に対する公安的弾圧事件が続発したのは比較的よく知られているが、福田政権になってもこれが続いていたことはあまり知られていない。たとえば京都府警の商工会への強制捜査などが代表的だが、少なくとも在日朝鮮人団体への弾圧に関しては、安倍・福田にあまり違いは無いことは確認しておくべきだろう。今回の新宿商工会への弾圧事件もこの「法の厳格適用」の名のもとに行われる、日本独自の制裁路線の流れの中にあると見ていいだろう。また新宿のケースは米国のテロ支援国家指定解除後にあえて発動したという点で注目を要する事件である。

  繰り返しになるが、別に在日朝鮮人団体への弾圧は安倍政権で終わったわけではない。福田政権下でも、もちろん麻生政権下でも続いてきた。だが、これを批判したり、問題にしたりする者はほぼ皆無だ。

  そしてここにきて民主党が日本独自の制裁案を発表した。産経新聞のまとめによると、国内の北朝鮮関係団体の資産凍結、朝鮮総連への課税強化など、この間ことあるごとに極右論壇、あるいは「救う会」などの極右勢力が主張してきた内容のほとんどが盛り込まれている上、「在日朝鮮人に対する再入国許可禁止」という驚くべき「制裁」まで含まれている。産経の記事は「北朝鮮当局職員の身分を持つ在日朝鮮人に限っている「再入国禁止措置」の対象を大幅に拡大する」としており、何らかのかたちで在日朝鮮人全体(あるいは朝鮮籍者か?)の再入国許可を禁止するつもりらしい。これは事実上在日朝鮮人の海外渡航を禁止するに等しい。在日朝鮮人の権利状況を1960年代水準まで逆戻りさせる、こうした驚くべき制裁案が民主党から出ているのはさもありなんというべきか。

  今後「救う会」などの極右勢力は、自民党から切り捨てられそうになったら民主党に接近して、在日朝鮮人弾圧を競争させていくのかもしれない。
by kscykscy | 2008-11-07 00:03 | 出入国/在留管理