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在外国民選挙と韓国籍在日朝鮮人の旅券問題③

 予告通り9月14日に「公職選挙法一部改正法律案」(以下、法律案)が国会に提出された。提案者はユン・サンヒョン議員以下12名で、いずれもハンナラ党所属である(公職選挙法一部改正法律案)。

 法律案の提案理由は以下の通り。

 これらの者〔引用者注:在外選挙権者〕のうち、朝鮮籍で日本に居住する在日同胞が国籍変更申請をして韓国国籍を取得し、投票に参与する場合、親北性向を持つ者が投票に参与することもできるようになるため、これに対する防止策が求められる。
 よって中央選挙管理委員会と区・市・郡の長が在外選挙人名簿及び国外不在者選挙人名簿作成時、大韓民国の利益と安全を害するためにこの法において規定された選挙に参与する虞があると認定しうる相当の理由がある者については、名簿に掲載しないようにするものである。


 ここで明確に述べられている通り、法律案は在外有権者のうち在日朝鮮人の投票権制限を狙いにしている。また、ここでは朝鮮籍から韓国国籍を取得した者を「親北性向を持つ者」とほぼ同一視しているが、他方で法律案の「朝鮮籍」の注では「朝鮮籍は1945年解放後に日本に住んでいる在日同胞のうち、大韓民国や北韓の国籍を持っておらず、日本に帰化もしていない者に付与された日本外国人登録制度上の便宜上の籍であり、事実上無国籍者扱いを受けている」と説明している。これを読むだけではなぜ旧朝鮮籍者がただちに「親北性向を持つ者」なのか理解に苦しむ。そもそも出生によって韓国籍を取得した者以外の韓国籍在日朝鮮人はいずれも旧朝鮮籍者なのだが、これも全て「親北性向を持つ者」なのだろうか。

 法律案は、現行公職選挙法第218条の8の第二項及び第218条の9第二項を以下のように改めることを提案する。

第218条の8(在外選挙人名簿の作成)

②中央選挙管理委員会は次の各号の一に該当する者は在外選挙人名簿に登載できない
1.大韓民国の利益と安全を害するためにこの法が規定する選挙に参与するおそれがあると認定しうる相当の理由のある者
2.虚偽により在外選挙人登録を申請した者や、自身の意思により申請したと認定できない者

第218条の9(国外不在者申告人名簿の作成)

②区・市・郡の張は次の各号の一に該当する者は国外不在者申告人名簿に登載できない
1.大韓民国の利益と安全を害するためにこの法が規定する選挙に参与するおそれがあると認定しうる相当の理由のある者
2.虚偽により在外選挙人登録を申請した者や、自身の意思により申請したと認定できない者


 現行法は「虚偽により在外選挙人登録を申請した者や自らの意思により申請したと認定できない者」は在外選挙人名簿・国外不在者申告人名簿に登載できないことになっているので、実質的には第二項の1号「大韓民国の利益と安全を害するためにこの法が規定する選挙に参与するおそれがあると認定しうる相当の理由のある者」の登載禁止が、今回の法律案の目玉といえる。以前に書いたように、私は旅券法に細工をすることによって実質的な投票権制限をするのではないかと思っていたので、真正面から公職選挙法の改正という手で来たのには驚いた(私の発想は「日本的」すぎたようだ)。

 さて、「大韓民国の利益と安全を害するためにこの法が規定する選挙に参与するおそれがあると認定しうる相当の理由」とは何だろうか。少し考えただけでも疑問だらけである。例えば、どういう手段を用いれば、その韓国籍在日朝鮮人が「大韓民国の利益と安全を害するために」投票しようとしているかどうかを判断できるのだろうか。過去の行為によって判断するのか、あるいは「意思」を何らかの手段で詮索するのだろうか。そもそも「大韓民国の利益と安全」とは何か。

 仮にこれらの問題を度外視したとして、なぜ在外国民だけが投票権に特別の制限を課されなければならないのだろうか。韓国憲法第41条第1項は「国会は国民の普通・平等・直接・秘密選挙により選出された国会議員により構成される」と規定しているが、果して、在外国民(実際には在日朝鮮人)だけが、事前に「大韓民国の利益と安全を害するために」投票しようとしているかどうかをチェックされ、実際に投票権を制限されたなかで選出された国会議員や大統領が、「国民の普通・平等・直接・秘密選挙により選出された」ものと言えるだろうか。

 法律案は本日9月15日に政治改革特別委員会に回付されたとのこと。同委員会の委員長は李敬在議員であるため、おそらく委員会は問題無く通るだろうが、本当にこの馬鹿げた法律案が実現するのかどうか。野党の反応も含めて注視する必要がある。
by kscykscy | 2011-09-15 18:10 | 外国人参政権

在外国民選挙と韓国籍在日朝鮮人の旅券問題②

 7月24日に書いた記事「韓国在外国民選挙と韓国籍在日朝鮮人の旅券問題」で、ハンナラ党の李敬在議員の「法的に対応できる方法がない」と憂慮したとの報道は、実際には法的措置を採るための一種の「予告」なのではないかと書いた。その後の推移を見守っていたところ、危惧したとおりとなった。

 7月から9月までの経緯を時系列に沿ってまとめると以下の通りとなる。

 7月某日 李敬在議員(政治改革特別委 委員長)、民団の行事に参加。「総連系韓国籍者」の選挙権問題についての憂慮の声に接する。
http://news.naver.com/main/read.nhn?mode=LSD&mid=sec&sid1=123&oid=156&aid=0000010488

 7月22日 李敬在議員、『聨合ニュース』に選挙権制限について懸念表明
http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2011/07/22/0200000000AJP20110722001300882.HTML

 8月29日 政府・選挙管理委員会が「親北」在外国民の選挙権制限を推進中であることがメディアで報じられる。外交通商部『2011在外同胞現況』発刊
http://www.mofat.go.kr/consul/overseascitizen/policy/index.jsp

 8月31日 ハンナラ党最高重鎮連席会議にて、「朝総連の国籍洗濯(ロンダリング)」問題として李敬在議員が提起。同党ホン・ジュンピョ代表も9月中にこの問題について与野党合意を実現すべしと発言。
http://news.naver.com/main/read.nhn?mode=LSD&mid=sec&sid1=123&oid=156&aid=0000010488

 9月8日 外交通商部、法務部、選挙管理委員会「在外選挙関係機関協議会」開催(実際に開催されたかは未確認)
http://www.nocutnews.co.kr/show.asp?idx=1903441

 9月13日 ユン・サンヒョン議員(ハンナラ党)、反国家性向の在外同胞の投票権を制限できる「公職選挙法」改正案を国会に提出すると予告(9.14提出予定)
http://www.kyeongin.com/news/articleView.html?idxno=605224
http://www.kihoilbo.co.kr/news/articleView.html?idxno=436373

 明日9月14日、韓国国会に「公職選挙法一部改正法律案」が提出されるが、以上のように、7月の李敬在による「懸念」以降、一気にハンナラ党内で議論が進み、ついに9月14日の法律案提出に至ったことがわかる。なお、李敬在は在米国民について、米国では公館が投票所となっているため広大な米国では投票のために飛行機を利用せざるを得ないことを問題視している。在米についてはできるだけ多く投票してもらいたいのがハンナラ党の本音なのだろうか。ちなみに『2011在外同胞現況』によれば、「在外国民」数の順位は、第一位が米国(108万2708人)、第二位が日本(57万8135人)、第三位が中国(36万9026人)で、オーストラリア、カナダ、フィリピン、ベトナムがこれに続く。

 民団とハンナラ党が恐れる「総連系韓国籍50000人」という数字が全有権者に占める割合がどの程度のものなのかについて考えてみよう。まず在外国民有権者総数だが、『2011在外同胞現況』は「在外同胞人口726万8771名」「在外国民279万9624名」との数字を記載しており(「在外同胞」は居住地国籍取得者を含む)、これを基にハンナラ党議員らの間で在外国民有権者数が約280万人に達するとの発言がなされている。しかし、統計表を見る限りではこの「在外国民」数は未成年者も含んでおり、即有権者数とはならないため、これは誤りであろう。

 試みに前回2007年の第17代大統領選挙の際の有権者数を参考にするならば、2007年の有権者数は3765万3718名だったので、当時の総人口4727万8951名の79.64%となる。これを単純に『2011在外同胞現況』の数字に当てはめると、「在外国民」中の有権者数は2,229,621人となり、日本在住の「在外国民」有権者は578,135*0.7964=460,426ということで、約46万人内外と推計できる。民団やハンナラ党のいう50000人についても、同じ割合で計算すれば有権者数は39820人となる。2012年の総有権者数は韓国在住の有権者数に在外国民有権者数を足したものとなるから、37,653,718+2,229,621=39,883,339となり、「総連系韓国籍」有権者数39820人は、全有権者の0.099841%、ざっとみて0.1%である。

 もちろん、ハンナラ党が本当にこの0.1%を恐れているとは考えがたい。選挙を有利に導くための反共「北韓ネタ」の一つだろう。数の多寡にかかわらず、思想・信条を理由に参政権を剥奪することがあってはならないことは言うまでも無いことであるし、韓国憲法からみても明らかに違憲であるが、ハンナラ党はどういう理屈で投票権制限を図るのだろうか。明日提出の公職選挙法改悪案が見ものだ。
by kscykscy | 2011-09-14 00:28 | 外国人参政権