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在外国民選挙と韓国籍在日朝鮮人の旅券問題①

 7月22日付で韓国の『聨合ニュース』が掲載した「朝鮮総連系韓国籍者5万人、投票参加への懸念浮上」なる記事は、見過ごせない内容を含んでいる。この記事は、与党・ハンナラ党の李敬在議員の弁として、「朝鮮総連系韓国籍者5万人」が来年の大統領選挙で選挙権を行使することになり、「朝鮮総連は北朝鮮の指示に左右されるため、投票にある程度影響を与える恐れがあ」る旨の「懸念」を紹介するものである(*1)。

 韓国は2009年に公職選挙法を改正し(法律第9466号、2009.2.12公布施行)、初めて在外国民の国政参政権を認めた。2012年12月の大統領選挙では約230万人とも推定される在外有権者が選挙権を行使することになる。記事は、こうした在外国民投票実施を前に、議員が「参政権制限に当たるため、法的に対応できる方法がない」と困惑しているかのように報じているが、果して本当に「法的に対応できる方法がない」と李敬在議員は考えているのだろうか。そう単純ではないように思える。

 私がそう考える理由は在外国民選挙の仕組みにある。現行の公職選挙法によれば、在外国民が投票する場合、選挙日前60日前までに「在外選挙人名簿」への登録申請をしなければならない。申請書には姓名・生年月日・性別、国内の最終住所地(or登録基準地)、居所を記載する他、ビザ・永住権・長期滞留の写しor居留国の外国人登録簿謄本に加えて旅券の写しを添付する。投票は在外公館で行われ、投票に際しては投票参観人の前で、投票用紙・発送用封筒・返送用封筒に加え、身分証明書を提示し本人確認を受けねばならない。そして、この際の身分証明書は旅券に限られている。

 このように、在外国民が投票する場合、①「在外選挙人名簿」への登録申請と②投票前の本人確認という二つの地点で旅券が必要となる。つまり、仮に韓国籍者であっても旅券が無ければ投票できないのである。逆に言えば、旅券を発給しなかったり旅券の更新を拒否すれば、「参政権制限」と直接言わずとも別件で実質的に参政権を停止することができることになる。つまり、「法的に対応できる方法」が存在しないわけではないのである。

 韓国政府にはこれまで恣意的な旅券発給業務を通して在日朝鮮人を統制してきた「前科」があるが、2011年に入ってからも、韓統連議長が何ら理由を明示されないまま旅券の更新を拒否される事件が起きており、仄聞する限りでも韓国籍であるにもかかわらず旅券の発給・更新を拒否される事例は少なくない。また、韓国政府は2010年9月の旅券法施行令改定により、旅券の有効期間に関する第6条第2項の第5号として以下の条項を新設した。
 国外に滞留する「国家保安法」第二条による反国家団体の構成員であり、大韓民国の安全保障、秩序維持及び統一・外交政策に重大な侵害を惹起する憂慮がある者:1年から5年までの範囲で侵害憂慮の程度に従い外交通商部長官が定める基準による期間
 上で書いたように、独裁政権時代の韓国政府は、意に沿わない人物の旅券発給・更新の拒否を当然のように行ってきた。「民主化」以後もその実態に大幅な改善が図られたとは言いがたい。この新設条項についても、これまでの運用を条文化したと見た方がよいだろう。ただ、この新設条項は有効期間の制限に留まるが、旅券発給の停止に関する何らかの法的措置を準備している可能性もある。朝鮮籍者にはほぼ全面的に旅行証明書発給を停止しているが、韓国籍者に対する旅券を介した統制も、大統領選挙を前に強まるのは必至であろう。『聨合ニュース』のこの記事をその予告と見るのは勘ぐりすぎだろうか。

 ちなみに韓国憲法第14条には「すべての国民は、居住及び移転の自由を有する」と、第21条第1項には「すべての国民は、言論及び出版の自由並びに集会及び結社の自由を有する」と記されている。この国でも憲法は守られていないのである。

*1  記事によれば「懸念」は民団から出されたようだ。だが、そもそも総連の専従団体職員が5万人もいるはずは無いのであるから、会費を払っているとか、朝鮮学校卒業者であるとか、親族が職員であるとか、相当に広い「総連系」の解釈を採らないと5万人という数字にはならないはずだ。そうなると民団の職員にも「朝鮮総連系韓国籍者」がかなりの数いることになるがそれでもよいのだろうか。
by kscykscy | 2011-07-24 01:07 | 外国人参政権