朝鮮学校への行政の介入と「不当な支配」――朝鮮学校と高校「無償化」問題⑫

 すでに何度か書いたとおり、「無償化」排除問題は朝鮮高校生の就学支援金支給からの排除から一歩進み、補助金を口実とした都道府県知事による教育内容への干渉という事態に至った。こうした大阪、神奈川、東京の各知事らのデマも交えた攻撃的な教育干渉に対し、朝鮮学校側はデマへの不毛な反論という消耗戦に追い込まれている。

 朝鮮学校側は石原に学校を見に来るよう訴えているようが、私はむしろ、石原慎太郎に授業を監視されるという体験が東京朝鮮高校の学生らの人格の健やかな形成を阻害し取り返しのつかない精神的な外傷を生むことを恐れる。

 それは措くとしても、現在の知事らの朝鮮学校攻撃は、個々の知事による教育干渉に留まらず、朝鮮学校への更なる弾圧強化のための中央政府も巻き込んだ連係プレーへと発展する可能性がある。その推測の根拠について以下に記しておきたい。

 現在の右派政治家らの朝鮮学校攻撃言説の核心は、朝鮮総連と朝鮮学校の関係は教育基本法第16条1項の「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない」とあるうちの「不当な支配」にあたる、というものだ。

 例えば、高市早苗は自らのブログで「菅内閣が昨年11月30日に閣議決定した答弁書には、「朝鮮総聯は、朝鮮人学校と密接な関係にあり、同校の教育を重要視し、教育内容、人事及び財政に影響を及ぼしているものと認識している」と書かれてありました。つまり、朝鮮人学校は、教育基本法第16条が禁じる「不当な支配」を受けている学校だと言えます」として、「無償化」阻止を叫んでいる(高市早苗「朝鮮学校無償化を阻止しよう」

 実は国会でも「無償化」排除問題が議論された昨年以降、この「不当な支配」問題をめぐって右派政治家の質問が相次いでいる。特に朝鮮学校叩きの質問を連投しているのが、ヤンキー先生こと義家弘介である。義家の質問主意書は全てweb上で閲覧できるので、2010-11年の関連する質問主意書とあわせてを以下に列挙しておこう。

2010.10.25提出:佐藤正久「朝鮮人学校の思想教育と高校授業料無償化等に関する質問主意書」
2010.11.22提出: 義家弘介「朝鮮学校に関する質問主意書」
2010.11.26提出:山谷えり子「朝鮮学校への高校授業料無償化適用に関する質問主意書」
2010.12.3提出:義家弘介「朝鮮学校に関する再質問主意書」
2010.12.3提出:義家弘介「朝鮮学校に対する教育基本法第二条の適用に関する質問主意書」
2010.12.3提出:義家弘介「朝鮮学校の無償化手続きの停止に関する質問主意書」
2011.1.26提出:山谷えり子「朝鮮学校無償化審査の手続き停止に関する質問主意書」
2011.1.27提出:義家弘介「朝鮮学校無償化手続き停止の法的根拠などに関する質問主意書」
2011.1.27提出:義家弘介「朝鮮学校無償化手続き停止の理由に関する質問主意書」
2011.1.27提出:義家弘介「北朝鮮による韓国砲撃事件と朝鮮総連及び朝鮮学校の関係に関する質問主意書」
2011.1.27提出:義家弘介「朝鮮学校無償化手続き再開の条件に関する質問主意書」
2011.8.30提出:山谷えり子「朝鮮学校の高校授業料無償化の審査再開に関する質問主意書」
2011.11.24提出:義家弘介「朝鮮総連と朝鮮学校の関係などに関する質問主意書」

 一見してヤンキー先生の「奮闘」ぶりがわかるだろう。衆議院での質問に朝鮮学校関連のものは含まれていないため、義家弘介は衆参あわせて朝鮮学校の高校「無償化」排除の急先鋒に立っているといえる。

 実は前述の高市が言及している菅内閣の答弁書というのも、義家の最初の質問主意書に対する政府の答弁書を指している。ただ、高市がおそらくは意図的に伏せている部分がある。それは、現時点で日本政府は朝鮮総連と朝鮮学校の関係が「不当な支配」にあたるとは明言していないということである。

 義家の、「「朝鮮総聯は、朝鮮人学校と密接な関係にあり、同校の教育を重要視し、教育内容、人事及び財政に影響を及ぼしている」という政府見解によれば、朝鮮総聯による朝鮮人学校に対する影響の行使は、教育基本法第十六条第一項の「不当な支配」に該当すると考えられるが、政府の見解を示されたい」との質問に対し、政府は2010年12月14日の答弁書で以下の通り答えた。

「一及び二について
教育基本法(平成十八年法律第百二十号)第十六条第一項に規定する「不当な支配」とは、国民全体の意思を離れて一部の勢力が教育に不当に介入する場合を指すものであり、具体的には、個別の事実関係に即して判断されることとなる。
お尋ねについては、一般論としては、ある団体が教育に対して影響を及ぼしていることのみをもって、直ちに「不当な支配」があるとはいえないが、いずれにせよ、これまでのところ、いわゆる朝鮮高級学校の所轄庁である都道府県知事からは、それらの教育施設においてお尋ねの点を含む法令違反による行政処分等を行った実績はないとの報告を受けている。」


 すなわち、「一般論としては、ある団体が教育に対して影響を及ぼしていることのみをもって、直ちに「不当な支配」があるとはいえない」、また、現時点では都道府県知事から法令違反による行政処分を行ったとの報告もない、これが日本政府の立場である。高市はこの政府答弁書を無視して「朝鮮人学校は、教育基本法第16条が禁じる「不当な支配」を受けている学校だと言えます」と断言しているが、これは事実を歪曲したものである。

 ただし、政府答弁は都道府県知事が「法令違反による行政処分」を行った場合、「不当な支配」に関する異なる解釈を示しうるようにも読める。このため、義家は2011年11月24日の質問主意書において、『産経』の報道を根拠に朝鮮学校が補助金を不正流用し「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則第一条第一項第二号ハの規定に基づく指定に関する規程」に違反しているのではないか、と再度質問している。

 こうした状況を勘案すると、いま知事らが騒いでいるのは、補助金カットに留まらず、口実を設けて「法令違反による行政処分」の既成事実を作り、これを根拠に文科省に朝鮮総連と朝鮮学校の関係が「不当な支配」にあたると言わせ、これをもって就学支援金の交付を阻止し、あわよくばそれ以上の「制裁」を課すためなのではないかとの危惧を抱かざるを得ない。

 そもそも、この「不当な支配」条項は、旧教育基本法では「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである」(第10条)となっていたものであり、教育行政による介入を抑制するための条項であった。だからこそ右派の教育基本法改正論者は、「不当な支配」条項の削除を求めてきた歴史がある。多くの改正批判論者も「不当な支配」条項の改悪に警鐘を鳴らしてきた。現行法は「不当な支配」という言葉を残しながらも、「この法律及び他の法律の定めるところにより」の文言を挿入することにより教育行政への抑制という性格を薄めたものとなっている。実際、新教育基本法第16条「不当な支配」条項は、早速朝鮮学校の弾圧に使われることになった。

 しかし、補助金を口実に朝鮮学校の教育内容に都道府県が介入することは、教育行政による「不当な支配」には該当しないのであろうか。確認してみたところ、新教育基本法においても知事は「不当な支配」の主体たりうるというのが16条に関する政府解釈のようだ。現行法第16条について、日本政府は当初「不当な支配」の主体に知事は含まれないとの解釈を取ってきたが、2006年11月22日、当時の伊吹文部科学大臣が知事もまた「不当な支配」の主体たりうると政府解釈を変更している。今般の朝鮮学校への知事らの介入について、逆にそれを「不当な支配」として訴訟を提起する必要があるのではなかろうか。

 特にこの問題に関して、教育基本法改悪論争において盛んに発言していた改悪反対論者たちは声をあげるべきではないか。教育基本法は実際に改悪され、そして改悪論者たちは新法を利用して見事に悪事を働いている。改正運動が改正と同時に解散するなら話はわかるが、改悪阻止運動が改悪と同時に解散してしまうなどという話は聞いたことが無い。今声をあげなければ他に声をあげるときなどない。
by kscykscy | 2011-12-23 17:46 | 朝鮮学校「無償化」排除問題
<< 韓浩錫「朝・日頂上会談の推進背... 「韓日協定再協商国民行動」の公... >>