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『民団新聞』の「無償化」排除擁護論――朝鮮学校と高校「無償化」問題⑩

 8月25日付『民団新聞』に掲載された「団体役員」李敬成の「民論団論 朝鮮高校無償化問題」という論説が凄まじい。まずは以下の文章を読んでいただきたい。
「朝鮮高校に対する無償化適用問題は、自国民の命を犠牲にして核を含む大量殺戮兵器を開発し、豪勢な生活をほしいままにしてきた世襲独裁政権に盲従を強いる同校の教育内容に、改めてメスを入れた。同時に、韓国籍を取得した後も朝総連組織に属して何らかの活動をする、いわゆる《偽装韓国籍者》が多数存在する事実をあぶり出した。

 韓国籍を取得した後にも反国家団体である朝総連と連携する者や、韓国籍でありながら北韓及び朝総連の指示を受けて運営される学校に子どもを通わせる父母たちは、韓国の実定法に違反していることになる。これに応分の対処をすべきであったにもかかわらず、韓国政府はこの間、何らの法的処置をとることもなかった。

 これを放置していいわけがない。関係当局は最近になってようやく、この《偽装韓国籍》問題の深刻性を認識し、朝総連に従属する韓国籍者に対する調査及び対処方案を模索しているという。これが具体化すれば、子弟を朝鮮学校に通わせる韓国籍の父母たちなどは、例えば、韓国入国や外国旅行の際に不便をかこつことになると観測されている。私はこれに、二つの効果を期待している。
〔略〕
 「韓国籍」であることをいいことに一部の朝総連系活動家は、韓国を往来しながら国内の従北・親北勢力と連携して、北韓主導による世論の撹乱や統一戦線拡充など、かつての工作員のような活動を公然と行ってきた。これを封じ込めることができるばかりか、朝総連の伝統的な民団浸透工作にも打撃となるだろう。民団は06年に、イニシアチブを朝総連に奪われかねない5・17事態という、苦い経験を味わった。

 もう一つは、朝総連傘下同胞が朝鮮学校そのものを改革するか、あるいは離れるか、を選択させる契機になるのではないか、という点だ。朝鮮学校で金父子独裁体制と主体思想に染まらざるを得ない子どもたちが、一日も早く朝鮮学校を離れ、正常な教育を受けられるようにすべきであり、長期的には朝鮮学校が朝総連から独立し、まともな教育機関になるよう圧迫を加える必要がある。
〔略〕
 日本政府に対しては、現状での朝鮮高校への授業料無償化は、その罪深い仕組みを支える、許されざる財政支援になることを厳重に警告する。韓国政府に対しては、何よりも徹底した調査を通じて、《偽装韓国籍者》への応分な対応を急ぐべきだと要求したい。」
 この論説で李敬成が主張していることをまとめるならば、1.朝鮮学校に通わせる韓国籍の父母には「韓国籍を取得した後も朝総連組織に属して何らかの活動をする」「偽装韓国籍者」が多数いる、2.「偽装韓国籍者」は韓国の実定法に違反している、3.韓国当局が近年「偽装韓国籍者」の調査を試みており、これが進めば「韓国入国や外国旅行の際に不便をかこつことにな」り、望ましい、よって日本政府は「韓国籍者も通っている」などという主張に惑わされず、絶対に朝鮮学校を「無償化」から除外するべきだ、となる。

 私は、朝鮮学校「無償化」排除の問題が起こった当初から、一声でも他の外国人学校から排除批判があがればと願っていた。もちろん、この問題に最大の責任を負うのは日本国民なのであるし、他の外国人学校が朝鮮学校を擁護して巻き添えをくいたくないと考えるのも、日本社会の排外的現実を考えれば責められるものではない。だが民団系の韓国学校は、単なる外国人学校というだけではなく、植民地支配の結果、日本に渡らざるを得なかった朝鮮人たちが民族教育のために作った学校であるという歴史的共通性を有しているのであるから、どんな立場からであれ一言排除批判の声があってしかるべきなのではないかと考えていた。

 ところがようやく出た論説がこれである。巻き添えをくいたくないから黙っているどころの話ではない。韓国国内の保守系メディアでもここまでは書いていない。「偽装韓国籍」云々についてはすでに李英和らが同趣旨のことを述べたことが『産経新聞』紙上で紹介されていたが、今回の『民団新聞』の論説は、少なくない在日朝鮮人を網羅する民族団体が、公然と朝鮮学校「無償化」除外擁護論を掲載したという点で画期的だといえる。

 李敬成がここで「韓国籍でありながら北韓及び朝総連の指示を受けて運営される学校に子どもを通わせる父母たちは、韓国の実定法に違反している」というときの「実定法」とは、悪名高い韓国の治安法たる国家保安法を指している。確かに韓国の裁判所は、国家保安法に基き朝鮮総連を「反国家団体」と指定しているが、それは1971年、つまり朴正煕政権期の判例である。李敬成は独裁政権時代の古い遺物を引きずり出し、在日朝鮮人の韓国籍者の思想・行状調査を行い、韓国入国を制限せよと主張しているのである。そうすれば韓国籍者は朝鮮学校に子供を通わせなくなるだろう、と。

 だがこうした李敬成の主張を韓国政府が実行することになれば、それこそ深刻な人権侵害を引き起こす。大韓民国憲法は第14条で国民の居住・移転の自由を定めており、また、第21条は同じく国民が言論・出版の自由と集会・結社の自由を有することを定めている。韓国政府が韓国籍在日朝鮮人の思想・行状を調査し、その結果として韓国入国を制限することは、明白に韓国憲法に違反する。李敬成は国家保安法を盾に、公然と韓国憲法を踏みにじることを政府に求めているが、そもそも国家保安法そのものが違憲の可能性が極めて高い。一治安法にすぎない国家保安法が、半世紀のあいだ憲法より上位に君臨してきた歴史を、李は再び現代に甦らせようとしているのである。

 なんとも情けないのは、こうした反共的な「偽装韓国籍」調査云々の理屈で、日本政府の朝鮮学校「無償化」排除を擁護していることである。李敬成は威勢こそいいが、何のことはない、現に日本政府が行なっている差別を追認し、そのおこぼれにあずかろうとしているだけではないか。この論説はぜひとも歴史に記録しておくべきである。
by kscykscy | 2010-09-01 01:16
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