在日朝鮮人の再入国規制と日本政府の「制裁」①-最高人民会議代議員の再入国禁止問題

 朝鮮民主主義人民共和国への送金規制強化を骨子とする「日本独自の追加制裁措置」が5月28日午前の閣議で決定された。福島瑞穂が罷免されたのは28日夜の閣議なので、社民党もこの「制裁」延長・追加に賛成したわけだ。

 さて、この「制裁」延長・追加をめぐっては閣議決定数日前より、朝鮮民主主義人民共和国を渡航先とする在日朝鮮人の再入国禁止が検討されていると報道された。報道は再入国「制限」としているが(『朝日』2010年5月28日7時38分)、在日朝鮮人が朝鮮民主主義人民共和国を渡航先とした場合は再入国許可を発給しないということなのだから、「制限」ではなく禁止が正確である。具体的に政府は、現行の日本居住の最高人民会議代議員6名への再入国禁止を、朝鮮総連中央常任委員会の構成員20名に拡大する方向で検討していたようだ(『47news』2010年5月25日18時15分)。

 『朝日』によれば、この案は「人道上問題がある」ということで見送られたのことである。だがそもそも現行の最高人民会議代議員6名への再入国禁止がどれほど深刻な問題を含むものなのかは、ほとんど指摘されていない。もちろん、『朝日』の記事に対してはそれでは現行の最高人民会議代議員6名への再入国禁止は「人道上問題」はないのかという疑問がすぐに浮かぶのだが、私は現行の最高人民会議代議員6名への再入国禁止は「人道」とは別のレベルで問題化されるべきだと思う。

 そもそもこの「制裁」措置は2006年7月5日より始まったものである(日本政府は「在日の北朝鮮当局の職員による北朝鮮を渡航先とした再入国は原則として認めない」と表現している)。実は在日朝鮮人の最高人民会議代議員への再入国については、7月5日以前より入管当局は再入国許可を即日交付しないなどの嫌がらせを行なっていたが(『朝鮮新報』2006年3月7日)、これが政府によって原則禁止というより高いレベルへ引上げられたのである。

 朝鮮民主主義人民共和国を渡航先とした再入国を原則として認めない、ということは結果的には朝鮮民主主義人民共和国の最高人民会議代議員を日本国内に拘留しておくことを意味する。仮に代議員が最高人民会議の職務を果すために日本を出国する場合、再入国無しで出ることになるわけだから、出国の時点で在留資格は失われる。さらに政府は2006年7月5日の「制裁」で「北朝鮮当局の職員の入国は原則として認めない」としているのだから、この代議員は一般外国人としての入国すらも禁じられることになる。つまり、現行の「制裁」のもとでは在日朝鮮人の最高人民会議代議員は、一度日本を出たら戻って来ることができないのである。これは事実上、代議員を日本国内に拘留しているに等しい。

 この「制裁」措置は、確かに代議員もまた一在日朝鮮人であるという点を勘案すれば、「人道上」極めて深刻な問題を有しているし、一般的な人権の侵害ともいえる。だが、そもそも最高人民会議の代議員は、朝鮮民主主義人民共和国の国内法に基き正当な手続を経て選出された公民の代表であり、少なくとも形式的には立法府において共和国公民の意思を代表する立場にある。日本政府は政府の明確な意思として、この公民代表のうちの6名を事実上日本国内に拘留しているのであり、いうなれば日本政府の作為によって立法府における共和国公民の意思の実現を阻んでいるのである。つまり、2006年7月以来の「制裁」は、在日朝鮮人の「人道」問題というよりも、朝鮮民主主義人民共和国の国家意思形成への日本政府による露骨な干渉としての側面を有している。そして驚くべきことにこの「制裁」がもう5年も続いているのだ。

 これに対して、在日朝鮮人の代議員は一応出国することはできるのだから、そうした批判は成り立たない、という反論があるだろう。だが、問題は当該代議員が朝鮮民主主義人民共和国に入国できるかどうかではない。当該代議員が日本に戻ってくることができない状況を作り出している日本政府の「制裁」措置は、そもそも朝鮮民主主義人民共和国公民が日本居住の公民から代議員を選出すること自体を事実上不可能とするものであり、いわば日本が朝鮮民主主義人民共和国の立法府の構成員をいかに選出するかに制限を課していることを意味する。ただ当該代議員が朝鮮民主主義人民共和国に行ければ済む問題ではないのである。

(続)
by kscykscy | 2010-06-03 12:22 | 出入国/在留管理
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